ハンドテストの創始者Dr. Wagnerについて
Edwin Eric Wagner, Ph.D. (1930-2018)
1930年12月29日に父David,母Idaの息子としてペンシルバニア州フィラデルフィアに生まれる。1956年3月24日,将来共にハンドテスト研究に携わることになるキャロル(Carol Ann Fletcher)と結婚。同年にテンプル大学にて学士を取得すると,翌1957年に修士,1959年には博士号を取得した。その後すぐにアクロン大学にて教職に就き,30年間教鞭をとり,名誉教授となっている。この間,1962年にブルックリン(Bricklin, B.),ピオトロフスキー(Piotrowski, Z. A.)(ロールシャッハ法の「知覚分析」で有名なピオトロフスキー法の提唱者)とともにハンドテストの最初のマニュアル本を刊行した。
また,1974年には,後にワグナー指標として有名になる多重人格障害者のロールシャッハ特徴をまとめた最初の事例研究を発表し(Wagner, E.E. & Heise, M (1974) A Comparison of Rorschach Records of Three Multiple Personalities, Journal of Personality Assessment 38,308-331),1981年に多重人格障害の5つのワグナーサインをまとめている(Wagner, E. E., Allison, R. B. & Wagner C. F. (1983) Diagnosing Multiple Personalities with the Rorschach: A Confirmation, Journal of Personality Assessment 47,143-149)。この間,ハンドテストとロールシャッハのテストバッテリー研究や,ハンドテストの解釈仮説となる構造分析理論など,いくつかの研究でキャロル夫人との共著研究が散見される。その後も,継続的にハンドテスト,ロールシャッハの研究を精力的に行っている。
1989年にアクロン大学を退いた後は,フォレスト心理専門研究所の学部長職に就いている。研究職の傍ら個人開業にて臨床実践も行っていたが,1994年からはアラバマ・ペイン・センターにて疼痛患者を対象とした臨床実践のコンサルタントとして関わっていた。この頃,新しいロールシャッハスコアリングシステムであるLogical Rorschachの最初の構想であるTRAUT(3つの内閉性)(Wagner, E. E. (1998) TRAUT: A Rorschach index for screening thought disorder. Journal of Clinical Psychology, 54, 719–762)の研究を始め,2001年にLogical Rorschachのマニュアル本(Wagner, E. E. (2001) The Logical Rorschach: A brief scoring method to screen for psychopathology, manual. Western Psychological Services, Los Angeles, CA.)を刊行している。
臨床実践の第一線から引退したのは妻Carolの闘病生活のためで,成人した二人の息子(Eric F.とMatthew L.)とは離れ,South Carolinaにあるリゾート地Palms島にて夫婦で数年間穏やかな生活を過ごしている。その後半,2002年に佐々木裕子が夫婦の邸宅に訪問し,直接ハンドテストの指導を受けることになる。2005年にCarol夫人が亡くなった後は,フロリダ国際大学にて臨床心理学の教授(青少年の薬物依存が専門)となった長男Eric F. Wagner, Ph.D.のいるフロリダ州マイアミに居を移した。その地で高校時代の恋人と偶然再会し,2008年に再婚。78歳になっていたが,ハンドテストをはじめLogical Rorschachに続いてロールシャッハ法による思考障害理解に関するオリジナルな理論の体系化を進めるなど精力的に研究を続けていた。しかし,再び妻に先立たれて数年経った2018年10月18日,体調を崩して病院を受診し,念のため1晩だけの予定で入院したところ,翌19日早朝に急変し息を引き取った。享年87歳,後2か月で88歳となる年であった。
ワグナー博士の訪問記(シリーズ)
ワグナー博士訪問記1
誠信プレビュー82号(2003年4月)に掲載された佐々木裕子のワグナー博士宅への訪問記です。2002年9月,佐々木は4日間ワグナー先生宅に滞在させて頂きながら,先生から直接ハンドテストを学ぶことができました。ハンドテスト図版がどのようにして作られたのか,貴重なエピソードが掲載されています。
ワグナー博士訪問記2
ロールシャッハ法研究第7巻に(2003年)に掲載された佐々木裕子のワグナー博士宅への訪問記です。精神プレビュー82号には掲載しきれなかったハンドテスト解釈についてのワグナー先生の教えや,当時の先生の研究,また先生自身のお人柄など佐々木裕子がワグナー先生から学んだことが詳しく紹介されています。