ハンドテストについて

ハンドテストとは?

<概要>

ハンドテストは、さまざまなポーズの手の絵が描かれた図版を刺激として、「何をしているところに見えますか?」と問う簡便な投映法である。心理検査バッテリーにおける補助的、補完的診断用具として、特に日常的行動傾向、行動化の危険性の査定に有効である。

ハンドテストは、大脳と手の間には継続的な相互フィードバックがあるため、あまり構造化されていない手の絵をどうように知覚し認知するかは、被験者の重要な知覚-運動系の傾向を反映するという仮説にもとづき、Wagner, E.E.によって考案された。

Wagner, E.E.は、知覚分析を著したPiotrowskiにロールシャッハ法を学び、ロールシャッハ法の人間運動反応が原型的な行動傾向を示すとした考えに影響を受け、人間運動反応を誘発する投映法を意図してハンドテストを考案した。Wagnerを中心としたハンドテスト研究グループは、医療機関だけでなく、特別支援教育領域、司法領域等、幅広い分野でハンドテスト研究を行った。それらの研究により、「手」という器官の特異性、それは発達的にも機能的にも外的世界と影響しあい、関わり合うのに決定的な部位であるという理由により、そこに典型的な行動傾向が投映されるという解釈仮説が検証されてきた。また、手は非言語的なコミュニケーションと深く関連しており、その意味で英語圏にとどまらず、さまざまな文化圏において、研究が行われている。日本でのハンドテスト標準化研究(ハンドテスト・マニュアル 2000年刊行所収)もその一つである。

<特徴>

・約10分間という短時間で施行できる
・簡便ながら行動化傾向の他に精神病理水準、神経症的不安の強さなどの指標を得られる
・負荷が少ないため幅広い年齢層、発達段階に適用できる
・なじみやすい日常的、具体性の高い刺激であるため、施行場面に脅威が少ない
・日常的な行動傾向、意識化できる表層的な心的内容を扱うため侵襲性が低い
・スコアリングが容易でその場でフィードバック・セッションが可能

<結果の解釈>

①反応数・初発反応時間による解釈

日本人の一般成人群の標準値(山上・吉川・佐々木,2000)を参照し、標準値からの逸脱が大きい場合には、心理的エネルギー、葛藤、衝動性の指標となる。

②量的スコアリングによる解釈

量的スコアリングは、教示に応じた適切な反応が産出されたかどうか、手の動作の対象が人であるかないか、何らかの強い内的体験が投映されているかいないかによって、すべての反応はいずれかのひとつの量的カテゴリーに分類される。このカテゴリー出現数を標準値と照らし合わせて逸脱が大きい場合に、そこに被検者の行動傾向や人格特性が反映されている。

③質的スコアリングによる解釈

経験的に病理性の指標となる反応について、質的スコアリングが付され、診断の補助資料として活用されている。 (吉川 眞理)

※参考文献

E.E.ワグナー(2000) ハンドテストマニュアル 山上栄子・吉川眞理・佐々木裕子訳 誠信書房
吉川眞理・山上栄子・佐々木裕子(2002) 臨床ハンドテストの実際 誠信書房

ハンドテストの生かされる場

臨床心理士という職名がまだ定かでなかった頃、私は精神科の病院で「心理の先生」として働き始めました。職名が周知されていなかったように、仕事の内容についても何だかはっきりしない職場環境でした。その緩やかな立場のおかげで、ゆっくりとした時間を患者さんとともに過ごしました。閉鎖病棟の中庭には花壇があり、その前のベンチに患者さんと並んで座り、咲いている花々を眺めながら患者さんのつぶやきを聴いていました。横に座る患者さんは時々入れ替わり、「特定対象だけのための密室空間」ではありませんでしたが、不思議と守られた感じを私自身は感じていました。また時にはソフトボールのバッターボックスに立ち、患者さんからの声援を受けることもありました。ホールの片隅に集まって歌を歌ったり、絵を描いてもらったり、今思えばアートセラピーらしきことを始めたのも明確な役割を背負わされなかったおかげかもしれません。さらに当時影響を受けた書物にセシュエーの「分裂病少女の手記」やレインの「結ぼれ」などがあり、共に在ることこそが大切と思っていたからかもしれません。

このように、ゆるゆるとした役割でしたが、これだけは「心理の先生」にしかできないという仕事がありました。それが心理検査を用いたアセスメントでした。地方の精神科病院には多くの入院患者さんと少しばかりの外来患者さんがいます。入院患者さんの多くは統合失調症の方々で、しかも慢性期に入って大きな変化を示さない方も少なからず居られました。また統合失調症に限らず、入院して状態は落ちついてきたが、外泊や退院の許可を与えて良いかを主治医が迷うこともありました。そんな時が「心理の先生」の出番でした。つまり、行動や態度など、外からの観察では落ち着いているように見えても、内的には社会適応できる準備ができているのだろうかという心配です。そこで、心理検査をいろいろするわけですが、アセスメントの頼みの綱であるロールシャッハ法では不穏時とあまり変らないことが時にありました。もっともロールシャッハ法は、被験者の基本的な思考・認知様式や対人イメージ、ファンタジーなどを反映するため、統合失調症である限りは、あまり変りようがないとも言えます。ハンドテストの創始者ワグナーの解説でもロールシャッハ法は内面自己を多く反映することが述べられています。一方ハンドテストは外面自己を多く反映するとされ、現実への態度や行動が変化すれば反応内容も変化する割合が高いのです。顕著な自験例は「臨床ハンドテストの実際」(2002,誠信書房)に「精神分裂病女性の混乱期と静穏期の比較」として述べています。そこでは、混乱期の「幻に手が触れられた・・」とBIZ(奇矯)としかスコアリングしようが無いような了解しがたいⅡカードへの反応が、静穏期では「壁にあえいでいる、危険な・・」という反応に替わり、FEAR(恐怖)に留まることができている内的変化が顕著に出ています。つまり、ハンドテストで図版(手のポーズ)に了解可能な反応が出てくると、社会適応もまずまずできるのではないかと予測され、退院指標にハンドテストが役立ちました。

その後私の仕事は、精神科という医療領域だけでなく、大学のキャンパスカウンセリングに広がっていきました。学生相談では、医療機関を受診する程ではないが、友人関係や自分の性格に悩むなど日常的なレベルでの悩みを抱えてくる方も多くありました。青年期の発達課題であるアイデンティティ獲得がスムースにいかない学生は、時に「私って一体どうなのか教えて欲しい」と焦ることもあります。そんな時、ハンドテストのフィードバックが役に立ちました。ロールシャッハ法ほど専門的でない一般的な言葉がスコア用語として使われているのも、フィードバックして被験者がすんなり受け入れてくれやすい理由があるのかもしれません。さらにその後、大学教員として臨床心理士養成に携わると、投影法の簡便なツールという学ぶ教材として、また実習授業の中での被験者体験を通して、「自分自身の何となく気になっていたことが明確になった」と感想を述べる学生もいて、自己を知る良い検査法であることを再確認しました。

このように、私の個人的な心理臨床経験からに過ぎませんが、「簡便で検査者にやさしい」ハンドテストは、被験者にも負担が少なく得る情報も多い投影法検査のひとつだと思っています。(山上 榮子)

 

<箕浦康子先生からの寄稿>

 

ハンドテストとの出会い

 

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